第3回

第3回 草花と四季をめぐる「本」~「はちうえは ぼくにまかせて」

植物のことを学び・知ることはもちろん、ゆったりとした気持ちで花を眺め、癒される、そんな「本」を、ブックコーディネーター・ライターの尾崎実帆子さんが紹介していきます。

「はちうえは ぼくにまかせて」

澁澤 龍彦 (著)
平凡社 1996, ISBN978-4759822427
澁澤 龍彦 (著)
平凡社 1996, ISBN978-4759822427

日が長くなり、夏休みの予定が話題になる季節に思い出す絵本です。
主人公トミーは小学校1~2年生くらいでしょうか。夏休みはどこへも出かける予定がないので「家ですきなことをやっていい」と言われたトミーは、旅行に出かけるご近所さんたちの鉢植えの植物を預かることを思いつきます。

トミーは家に次々と鉢植えを持ち込み、それぞれの植物に合ったお世話をします。お日さまが好きなお花は日当たりのいいところに、サボテンには水をほんのちょっぴり。上手なお世話でどんどん大きくなる植物たちを見てトミーは満足気。
葉っぱに囲まれた食卓は「ピクニックみたい」で、浴室は「森の中の湖みたい」と、ジャングル化していく家を楽しんでいたトミーでしたが、しだいに気づくのです。このままでは家じゅうが植物に覆われてつぶれてしまう!と。

そこでトミーは図書館へ。ここが「本好き」人間の私としてはうれしい展開です。図書館のページは、描かれた本棚の絵をじっくり見てほしいです。
そこからトミーが探し出して借りたのは「あなたのはちうえ 大きすぎませんか」という本でした。本をもとにトミーは学び、行動して「家が植物につぶされる」ことを回避。具体的に何をやったかはぜひ読んでほしいのですが、鉢植えを預けていたご近所さんたちも「前よりもすてきになっている。」「はちうえが、とても元気だ。」と感心するのでした。

本作はジーン・ジオンとマーガレット・ブロイ・グレアム夫妻の共作ですが、彼らの作品でもっとも有名なのは「どろんこハリー」でしょうか。ハリーの絵本も本作も、使われている色の数がとても少ないことが共通点です。
「はちうえは ぼくにまかせて」は、黒鉛筆と、青色と黄色の水彩のみで描かれています。混色や濃淡の使い分けで、色数の少なさをまったく感じさせない表現力はさすがですし、なにより子どもの表情や犬や猫の生き生きとした動きは、原作の発行から60年以上たった今もまったく色褪せません。
そして、鉢植えの植物たちも、「顔」は描かれていないけれど、きっとトミーや犬猫たちとお話ししているんだろうなと思わされるのです。

この記事を書いた人

尾崎 実帆子

尾崎 実帆子

ブックコーディネーター・ライター。「Sapporo Book Coordinate (さっぽろブックコーディネート)」代表。「適“本”適所」をコンセプトに、カフェやショップ、商業施設、イベント会場など、街のさまざまな場所で本を買える仕組み作りに注力。本にまつわるイベントを企画開催したり、本の楽しさを伝える書評執筆を行なう。北海道新聞「親と子サンデー ほん」を2012年より執筆ほか、絵本・児童書の書評掲載、雑誌やラジオなどのメディアで書評掲出。札幌インストラクターガイド登録講師、絵本・児童文学研究センター正会員。

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