第11回

第11回 草花と四季をめぐる「本」~「野生のアイリス」

植物のことを学び・知ることはもちろん、ゆったりとした気持ちで花を眺め、癒される、そんな「本」を、ブックコーディネーター・ライターの尾崎実帆子さんが紹介していきます。

「野生のアイリス」

ルイーズ・グリュック (著)、野中 美峰 (翻訳)
KADOKAWA、2021、ISBN978-4046053664
ルイーズ・グリュック (著)、野中 美峰 (翻訳)
KADOKAWA、2021、ISBN978-4046053664

2020年にノーベル文学賞を受賞したアメリカの詩人が1992年に発表した「The Wild Iris」の邦訳。縦長の表紙に透き通るようなアイリス(あやめ)の凛とした花姿が書店でも目を引きます。本作は、作者が詩を創作できずにいた約2年間のスランプを経て書き上げた詩集であり、その間「庭に植える草花のカタログを眺めて過ごしていた」ことが訳者あとがきに記されています。

表題作をはじめ花の名前そのものをタイトルにした詩、季節の移り変わりや詩人の心の葛藤をモチーフとした詩、そして「祈り」の詩が複数篇ずつという構成。全篇を通して「庭」を舞台として、「あなた」と「わたし」という主体が中心に言葉が紡がれます。

作品によっては「あなた」は神(創造主)のことだったり、庭に咲く花だったりします。同じように「わたし」は詩人本人であるだけではなく、人間に語りかける神であったり、庭に繁茂する草だったりもします。
読み方によっては、この詩に触れた読者が「あなた」であり「わたし」であるかもしれません。例えば「クローバー」の詩では、「あなたが幸運のしるしと呼んでいるもの わたしたちと同じ 根こそぎにされる 雑草に過ぎないのに」のように、「わたしたち」はおそらくクローバーの葉で、「あなた」は詩人だったり読者だったりするはずです。

解釈はそれぞれだと思うのですが、この翻訳詩集はすべて原詩(英語)が併記されていて、たとえば「you」が「あなた」「あなたたち」「お前」などと訳し分けられていることに気づいたり、「I」は人であり草花であり自然(や神)であり、それらが交錯するような感覚にもなります。

 

詩人の生い立ちや経験はもとより文化的宗教的な背景の違いもあり、一読してもよくわからない詩もありますが、作者は草花や庭の姿に自身を投影させているのではないかと感じます。もちろん感じ方は人によってさまざまでいいと思います。庭や植物を見つめながら紡ぎ出される豊かな言葉の一端に触れてみてはいかがでしょうか。

この記事を書いた人

尾崎 実帆子

尾崎 実帆子

ブックコーディネーター・ライター。「Sapporo Book Coordinate (さっぽろブックコーディネート)」代表。「適“本”適所」をコンセプトに、カフェやショップ、商業施設、イベント会場など、街のさまざまな場所で本を買える仕組み作りに注力。本にまつわるイベントを企画開催したり、本の楽しさを伝える書評執筆を行なう。北海道新聞「親と子サンデー ほん」を2012年より執筆ほか、絵本・児童書の書評掲載、雑誌やラジオなどのメディアで書評掲出。札幌インストラクターガイド登録講師、絵本・児童文学研究センター正会員。

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