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植物のことを学び・知ることはもちろん、ゆったりとした気持ちで花を眺め、癒される、そんな「本」を、ブックコーディネーター・ライターの尾崎実帆子さんが紹介していきます。
ポール・ヴァーゼンは著名な学者や植物採集者ではありません。表紙に飾り文字で記された署名「Melle Paule Vaesen」のMelleは“お嬢さん”という意味で、本書には彼女の100枚ほどの植物標本と、この標本から着想したフランス文学者 堀江敏幸氏が綴った掌編「記憶の葉緑素」が収められています。
本の製作を企画したのは東京の古道具店「ATLAS」店主の飯村弦太氏。仕入れのために訪れた南フランスの蚤の市でこの標本の束に出会ったのだそう。使用されている紙の質から100年ほども前のものと直感したそうですが、もちろん色褪せてはいるものの、これが古道具屋に流れてきたものと考えれば驚くほどよい保管状態だったといいます。
標本には植物の学名と科、そして採集した場所の地名が1枚ずつ丁寧な筆記体で書かれていて、スイスからフランスにかけての高山などで採集したことがわかります。ラベルや採集年月日などはないため学術的な植物採集ではなく、おそらく彼女が個人的に作成したもの。“お嬢さん”が野山へ分け入っては出合った植物を集め、植物図鑑で名前を調べてプレスし、1つひとつを丁寧に台紙に貼り付けていった……。長い年月を経たウスベニアオイの淡く透き通るような花びらやヤナギランの凛とした紫色にはハッとさせられますし、エゾノチチコグサは100年経っても可憐な雰囲気を纏(まと)っています。(巻末にすべて和名が記載されています)
彼女はどんな生活をしていて傍らには誰がいて、どんな思いを込めてこの標本を作っていたのでしょう。堀江氏の文章は、手がかりの少ないポール・ヴァーゼンの姿をゆるやかになぞるようにイメージを膨らませてくれます。最も多くを採集した地は、その後開発されて高速道路が走り現在は存在しない地名なのだそうです。かつてその地に存在した植物を丹念に集めて残した本人はそのことを知らないでしょうし、ましてやそれが遠い異国にやってきて出版されるなど、考えもしなかったでしょう。今はなき土地の風に揺れるずっと昔の草花を思いながら、眺めているだけでも不思議と癒される作品です。
ブックコーディネーター・ライター。「Sapporo Book Coordinate (さっぽろブックコーディネート)」代表。「適“本”適所」をコンセプトに、カフェやショップ、商業施設、イベント会場など、街のさまざまな場所で本を買える仕組み作りに注力。本にまつわるイベントを企画開催したり、本の楽しさを伝える書評執筆を行なう。北海道新聞「親と子サンデー ほん」を2012年より執筆ほか、絵本・児童書の書評掲載、雑誌やラジオなどのメディアで書評掲出。札幌インストラクターガイド登録講師、絵本・児童文学研究センター正会員。
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