第9回

第9回 草花と四季をめぐる「本」~「ハーニャの庭で」

植物のことを学び・知ることはもちろん、ゆったりとした気持ちで花を眺め、癒される、そんな「本」を、ブックコーディネーター・ライターの尾崎実帆子さんが紹介していきます。

「ハーニャの庭で」

どい かや (著) 
偕成社 2007年、ISBN 978-4032322309
どい かや (著) 
偕成社 2007年、ISBN 978-4032322309

北国の庭はすっかり雪に覆われ寒さが堪える頃。雪解けが待ち遠しく、草花の彩りや生きものたちの息吹が恋しい季節に、こんな絵本はいかがでしょうか。

 

猫のハーニャは山の中腹の小さな家に住んでいます。家には小さな庭があり、ハーニャは庭が大好き。ハーニャが話したり、なにか事件が起きたり冒険したりという絵本ではありません。やわらかなパステル調のタッチで描かれた草花や自然の情景が静かに流れ、そこに住むハーニャをはじめいろいろな生きものたちの1年を優しく見守っているかのような文章が添えられています。

はじまりは庭一面が雪に覆われた1月から。2月、3月とページをめくるごとに、草花の芽吹きとともに少しずつ彩りが増し、庭を訪れる小さな生きものたちも増えていきます。庭の花が咲き、畑の作物が育ち、葉の色も移ろい木々には実がなります。春、夏、秋と季節が巡る間にハーニャには家族ができたり、庭にはお客さんがやってきたり、新しい仲間が増えたりと賑やか。やがてまた冬がやってきて……。

表紙を開いた見返しには、作者どいかやさんのコメントが添えられています。

 

「自分の庭だと思っていた その場所は、

ほんとうは とっくに、もうずっと前から、

誰かの住まいで、誰かの通り道でした。

ちいさな 美しい先住民たちに。」

 

ここには「エコロジー」とか「サスティナブル」などの言葉は出てきませんが、私たちが暮らす自然環境や生きものたちの命の営みについて、遥かむかしからこの先の未来にまで思いを馳せることができる文章だと感じます。

どいかやさんは自然豊かな森で猫たちと暮らしているそう。著者のエッセイ「ちっぽけ村に、ねこ10ぴきと。―絵本作家の森ぐらし」(白泉社)には、可愛らしい猫たちがたくさん登場しています。人間の目線や尺度ではなく小さな生きものたちにフォーカスしながら季節の移り変わりを細やかに描写し、スケールの大きなイメージを喚起させてくれる作品は、そんな日常から生まれてくるのでしょう。

この記事を書いた人

尾崎 実帆子

尾崎 実帆子

ブックコーディネーター・ライター。「Sapporo Book Coordinate (さっぽろブックコーディネート)」代表。「適“本”適所」をコンセプトに、カフェやショップ、商業施設、イベント会場など、街のさまざまな場所で本を買える仕組み作りに注力。本にまつわるイベントを企画開催したり、本の楽しさを伝える書評執筆を行なう。北海道新聞「親と子サンデー ほん」を2012年より執筆ほか、絵本・児童書の書評掲載、雑誌やラジオなどのメディアで書評掲出。札幌インストラクターガイド登録講師、絵本・児童文学研究センター正会員。

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