庭がつなぐ―。東神楽町・新しいガーデンのかたち「ガーデニング合葬墓」

取材協力・写真:東神楽町、いずみガーデン 和泉玲実さん

 

北海道のほぼ真ん中に位置する東神楽町に、花の咲く小さな丘を墓地に見立てた「ガーデニング合葬墓」が誕生しました(令和4年10月)。
東神楽町は、お米や野菜を中心とした農業も盛んで‟花の町”としても有名です。住みやすさ、子育て環境などにも力を入れています。町内には東京と直通便で結ぶ「旭川空港」も有し、これからご紹介する「ガーデニング合葬墓」は、空港にも隣接した車で5分ほどの場所にあります。空港からの利便性もよいため、町民だけでなく道内外からも注目を集めている、新しい試み・新しいかたちの合葬墓です。

花たちがそよぐ丘
「東神楽町ガーデニング合葬墓」が注目

ガーデニング合葬墓のガーデンデザインを手がけたのは、旭川市旭川町に造園店を構える「いずみガーデン」の和泉玲実さん。子どもと地域のつながり、福祉と庭などをテーマにした造園分野にも注力しています。
東神楽町とともに取り組む新しいガーデンのかたち「ガーデニング合葬墓」について、どのような思いと工夫で手がけていったのかお話を伺いましたので、さっそくご紹介していきましょう。

「東神楽町ガーデニング合葬墓」のイメージ・デザイン画
「東神楽町ガーデニング合葬墓」のイメージ・デザイン画

大雪霊園の新墓所エリアにつくられたガーデニング合葬墓は、‟ガーデニング”という文化を取り入れた供養の場所。小高くなった丘には、宿根草を中心とした花々が植えられています。
植栽は、霊園になじむような優しい面持ちの植物を選定し、宿根草をメインに約70種類10.000株。丘の頂上にはカロート(納骨場所)があり、周りはガーデンと同じように季節ごとの花が咲き続くような植栽デザインとなっています。花と周囲に望むロケーションも美しく、誰でも訪ねて自然と心癒される時間を過ごすことができます。
「花に囲まれた中で眠りたい」「家族や友人に何度も足を運んでもらいたい」といったことをコンセプトとし、‟参拝者も癒されるお墓”を目指しています。※樹木葬ではありません。

丘の頂上にはカロートを囲むようにして花色が広がる。宿根草をメインにした植栽デザインは、季節ごとの花が咲き続くように――
丘の頂上にはカロートを囲むようにして花色が広がる。宿根草をメインにした植栽デザインは、季節ごとの花が咲き続くように――

ガーデニング文化を取り入れた特徴

ガーデニング墓地の前面には献花できるスペースがあり、台の上に花を置いてから手を合わせたり、話しかけたりできるようになっています。お参りをしたあとは「感謝の道(Path of Gratitude)」と名づけられた散策路をゆっくりと歩きながら、大切な方との思い出と一緒に、飛行機雲の見える青空や緑の丘陵、渡る風、季節に優しく咲く花々を感じることができます。
花を見て歩ける通路の一部は石張りに。さまざまな淡い色合いのスレートストーンを敷き詰めてあり、花の少ない時期にもさみしくならないような工夫も施されています。

自然石の石張りの通路「感謝の道(Path of Gratitude)」。散策路を歩きながら、思い出と一緒に花の美しさや豊かな自然を感じる (2022年10月、秋の植栽直後の様子 ※以下同)
自然石の石張りの通路「感謝の道(Path of Gratitude)」。散策路を歩きながら、思い出と一緒に花の美しさや豊かな自然を感じる (2022年10月、秋の植栽直後の様子 ※以下同)
周囲には豊かな自然が広がる。十勝岳の山々も望む
周囲には豊かな自然が広がる。十勝岳の山々も望む

また、献花台に使用している石材は、東神楽町の採石場から一つひとつ手で集めたもの。地元産の石を大小さまざまな中から積み上げに向いているものだけを選んで、職人さんが手間を惜しまずに大切に丁寧(ていねい)に積み上げました。手作業で積んだ石に、人の優しさと温もりも感じられるように――。

石材はサイズも色もさまざま。選別を行ないながら、職人さんが一つひとつ積み上げていく
石材はサイズも色もさまざま。選別を行ないながら、職人さんが一つひとつ積み上げていく
夕日に染まる自然石の献花台。一つひとつ違った表情を持つ石が、何かを語りかけてくるような気がする
夕日に染まる自然石の献花台。一つひとつ違った表情を持つ石が、何かを語りかけてくるような気がする
献花台に手向けられた花
献花台に手向けられた花

ガーデニング合葬墓にはプルモナリア、コレオプシス、エゾミソハギ、モナルダ、ペルシカリア、アスターなど、約70種類の宿根草が植栽されています。「ゆったりと長いストロークで、趣きある花の雰囲気を見て感じていただけたら…」と考えられたものです。風に揺らぐ植物の姿が、美しいレイヤー(層)になって風景をつくり出す様子をイメージ。花はまだ苗の状態ですが、年々育っていく様子をともに見守ることができるのも、ガーデニング合葬墓ならではでしょう。

横に広くゆったりとしたストロークで少し緩やかなカーブを描き、花々に包まれているよう――
横に広くゆったりとしたストロークで少し緩やかなカーブを描き、花々に包まれているよう――
植えたばかりの苗はまだ小さい。年々大きくなる花や緑の成長を見守る
植えたばかりの苗はまだ小さい。年々大きくなる花や緑の成長を見守る

宿根草の草花のほか、大きなモミジやサクラ、ヤマボウシ、プンゲンストウヒ、ハギなどの木々からも、風のそよぎや季節の移り変わりを感じられるようになっています。中には、どなたでも「ハグ(抱擁)」できるドングリの木も。すでに9mもある木ですが、今後もゆっくり成長し大木になってくれることを願って植えたものです。

「合葬墓の横に添えたハグの木は、360度どこからでも抱きしめてください」。

その存在感は、誰かが見守ってくれているかのようです。抱きしめれば、大地が育む生命力を吸収し、空に向かう樹木たちの息づかいを感じられるでしょう。

植えたばかりの頃の「ハグの木」。現在は看板もついて、静かな空間で存在感を放つ。秋には時折、ドングリの実が落ちる音が聞こえてくる
植えたばかりの頃の「ハグの木」。現在は看板もついて、静かな空間で存在感を放つ。秋には時折、ドングリの実が落ちる音が聞こえてくる

ゆったりと美しい芝生墓地も

花の丘(ガーデニング合葬墓)の向かいには、芝生墓地があります。ゆったりとした空気感の中にあり、合葬墓とは違った利用形態で個別に使用することのできる墓地になっています。大きな段差がないので、車から降りたあとも比較的スムーズに歩けるようなっています。

花の丘(ガーデニング合葬墓)と広がる芝生(芝生墓地)。周囲の豊かな自然に抱かれて、ゆったりとした時間が流れる
花の丘(ガーデニング合葬墓)と広がる芝生(芝生墓地)。周囲の豊かな自然に抱かれて、ゆったりとした時間が流れる

ガーデニング合葬墓のエリアではミニコンサートなどのイベントの開催も。今年7月8日にはハープ奏者をお迎えし、「千の風になって」や「涙そうそう」、「庭の千草」「翼をください」などの有名曲の演奏が行なわれました。また当日は、東神楽町に隣接する東川町の雑貨店よるラトビアのハーブティーやエルダーフラワードリンクといったドリンクの無料提供や、お子さまが楽しめるキッズコーナーも用意され、家族そろって楽しめるイベントとなりました。

演奏が行なってくれたのは、ハープ奏者 池野麻里さん
演奏が行なってくれたのは、ハープ奏者 池野麻里さん
雑貨店「UPE」(東川町)によるハーブティーなどの無料提供やキッズコーナーも! (写真は、イベント当日の様子)

誰でも訪れて、花や周囲の自然の中で癒しや安らぎを感じることができます。そして、故人と大切な人やご家族が、また心をつなぐことができる場所です。新しいガーデンのかたち「東神楽ガーデニング合葬墓」を一度訪ねてみてください。

東神楽町のガーデニング合葬墓をデザインした際に考えたコンセプト(いずみガーデン 和泉玲実)
東神楽町のガーデニング合葬墓をデザインした際に考えたコンセプト(いずみガーデン 和泉玲実)

東神楽町「ガーデニング合葬墓・芝生墓地」は、町民の方も町民以外の方でも申込みをすることで利用することができます。お問い合わせは、東神楽町くらしの窓口課 環境生活係へ(TEL:0166-83-5402)。

秋の夕暮れ時、とても静かな時間が流れる
秋の夕暮れ時、とても静かな時間が流れる

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niwacul編集部

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北海道のガーデニング&カルチャーWEBマガジン「niwacul(ニワカル)」編集部。ていねいな暮らしを楽しむガーデナーによる、北海道の生活情報発信メディアです。

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